あったかい人

43年間の人生で、本当にあったかい人と出会うことが出来た。
恩師だ。米さん・・・。
出会いは私が7歳の時だった。そしてそのまま34歳までの27年間、ずっと一緒に過ごしたが、大学時代や卒業後の一時期、別の所で過ごしていた事もある。けれど、一週間に1度は最低でも話をしていた。自分が行き詰ると、私はすぐに米さんに電話するからだ。
いつどんな時に電話しても、米さんが選手を指導している時でも、食事中でも、必ず電話に出てくれた。そしてほとんど後で、かけ直すということもなかった。どんな時でも必ずちゃんと話を聞いてくれた。ひととおり。全部。
吐き出すだけ吐き出させた後米さんは、私にこう言う。
「あほかおまえ〜〜」
私はこの言葉で何度も救われた。
何度泣きながら電話した事か。悔し泣きの時もあったし、情けなくて涙が出る日もあった。
電話の先で米さんは、けっして甘い事を言わなかった。
私に気持ちを散々吐き出させた後に、いつも叱られた。「あほかおまえ〜」っと言って。
お金に困って米さんにお金を借りたこともあった。しばらくたって返そうとすると、「いらん、旨いもんでも食えっ」といって、受け取らなかった。
私はそんな時、(この人を一生支えたい・・・)という気持ちになったものだった。
けれど志半ばで私は米さんの元を去った。はたしてこれでよかったのだろうか。いつもその事が忘れられない。頭から離れない。
多感な青春時代を生きる難しい子供達を何人も抱え、全員に全身全霊を尽くして教育した人だった。真の教育者だった。

今日、大きな失敗をした。仕事の事ではないが、重大な事だ。
昔だったら米さんに相談した。どうしたらいいんですか?って聞けば、じっくりと話して聞かしてくれた。時々質問をされながら、それに答えていくと、だんだん勇気が取り戻せるようになる。真摯に向き合おうと言う倫理を取り戻せる。そういう人だった。
今日なら米さんは私になんて言って叱ってくれるんだろう。

「先生、すんません・・・。大失敗しちゃいました・・・・。」

「あほかおまえ〜」

あったかくて、どんなに叱られても、素直に反省できた。そして勇気を持つ事が出来た。アホな私を慰めてくれた。叱ると言う手法で。

会いたい。こんな時、いつもそう思う。