億万長者さかっぺ

幼馴染(おさななじみ)のさかっぺ。10年前に癌を患い、骨盤内の内臓をすべて取り除く大手術をして、人工膀胱人工肛門となり、ネットワークビジネスで大成功を収め、年収が億になったさかっぺと、どういうことか、何の因果か、ひょんなことから久しぶりに会うことが出来た。
セミナーで大阪に来ていた彼と、久しぶりに飲もうと言う事になり、せっかくなので、我が家にご招待。聞いた話でしかないが、大金持ちになったさかっぺが、私にはちょっぴり敷居が高かったけれど、会ってみたらまったく変らない昔のままだった。我が家で鉄板焼きしようと、三越伊勢丹で牛肉を2キロ買ってきてくれたのだが、そのお肉がびっくり仰天。100g2千円クラスの神戸牛。他にも海老やホタテなど、何万円もの食材を、大きな荷物と一緒に持って来た。
電車で行くからいいよと、車のお迎えもしなかったから、小さな荷物かと思いきや、でっかいスーツケースと買い物袋。トンネル越えて、電車で近隣の駅に登場したさかっぺは、会った瞬間に10年前にタイムスリップするほど、何一つ変っていなかった。クールでもなく、嫌味でもなく、昔とまったく変らないさかっぺに、子供達もすぐに慣れ、末っ子は、かとちゃんぺ!をもじって、「さかっぺ!」といいながら、指を2本、鼻の下に添えて志村けんを真似る。大きなお腹をパンパン叩いて、さかっぺにちょっかい出す。人工膀胱があるお腹を叩く末っ子に、ひやひやする私だが、さかっぺはそんな事も気にしないまま、子供達と戯れる。昔と何も変らない、いいやつのままだった。
久しぶりのさかっぺとの酒。話は思い出話から、私の恩師の米さんの話まで、よっぱらった二人の思い出話は尽きない。さかっぺは米さんの教え子ではないが、何故だか思い出せないが、私を通じて昔からよく知っている仲だった。ネットワークビジネスの話もしたが、圧倒的な成功者の話は、聞いていても面白かった。けれど、「すみけん、やろうよ」のひとことがない。私をまったく誘おうとしないのだ。成功者は、やってみたいと思う人にしか、ビジネスの話をしないのだなあと感心した。
久しぶりに幼馴染と飲む酒は、本当に楽しい酒だった。さかっぺと遊びつかれて眠る子供達。妻も一緒にみんなで酔っ払った。
1本350円の、さかっぺのビジネスの取り扱い商品の水素水を、100本もくれた。さんざん飲んで、夜中の2時。一本、水素水飲んでから寝なよと言われ、言うとおりに飲んでねたら、まったく二日酔いしないので驚いた。次の日、さかっぺと私の共通の友達である「永田竜司」さんが、わざわざ神奈川から会いに来てくれた。その日の晩、イオンに買い物に行き、我が家の次女が大好きなお寿司を、またしても3万円分くらい大人買い。というか、金持ち買い??(笑)子供5人の家は、大変だろうと、お菓子から調味料まで、バンバン買い物カゴに入れるさかっぺ。私が申し訳ないから、そんなにいいよ〜と言うと、「すみけん、そんなの気にすんなよ、俺達の仲じゃないか〜!」と、経費のかかる我が家を見越して、妻の喜ぶ冷蔵庫の中身や、しばらくもつであろう、子供達のおやつをた〜くさん買ってくれた。その日も我が家に泊まり、今度は竜司が一人増えて、またシコタマ呑んだ。だからまた楽しい夜を過ごした。次の日もさかっぺは、子供達に、「何が食べたい??」と聞く。長男が、「やきにく!!」と答えると、大阪の鶴橋に行こうと言う。いくらなんでも、これ以上は申し訳ないと、割り勘で行こうと言うと、さかっぺはそれじゃあ、余計に誘いにくくなるじゃんかと、経費のかかる我が家を、完全熟知。妻も恐縮はするものの、行った鶴橋のお店が高そうで、現実を受け入れる。恐縮したまま家族全員で、竜司とさかっぺと一緒に焼肉に舌鼓をうった。
鶴橋の焼肉は本当においしかった。アントニオ猪木もよく来る店らしい。他にも多くの芸能人のサインがあった。

新大阪に送る前、さかっぺが子供達に任天堂のWiiを買ってあげても言いかと聞いてきた。当然、そんなに世話になるわけにはいかんと、私は必死に断るのだが、連休の間も旅行もせず、おとなしく家にいるんだから、みんなで遊べるゲームを買ってあげたいのだという。会話に子供達が入り、「ほしいほしい」と、まだ遠慮を知らない、4番目と末っ子の子供がほしがる。長男や次女は、遠慮して黙っているが、私は随分前から子供達がWiiがほしがっていることは知っている。子供達は随分前から、サンタクロースに、任天堂Wiiをお願いしてきた。毎年サンタに裏切られてきたクリスマスが、いっぺんに来たみたいな日。「すみけん、Wii買ってあげようよ、いいだろう?」私はなんとなくわかっていた。さかっぺは独身だし子供がいない。幼馴染の私とさかっぺの関係。昔は一緒に住んで、いつも一緒にいた、一言では言えない、心の友だから、だから、まるで会わなかった時間の穴埋めするみたいに、そして離れている間に、私に5人もの子供がいることを、さかっぺは言葉ではうまく言えないだろうが、喜んでくれているんだ。
私はさかっぺに、「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ」と、みんなで電気屋さんに向かった。Wii本体と、リモコン4つ、あらゆる付属品を4人分と、Wiiのソフトを、それぞれの子供ひとつづつ、また何万円も購入。緊張してレジに立つ子供達。いいのかなあ?と、私の顔を見る子供に、さかっぺがやさしく声をかける。「お父さんのおかげなんだよ〜」。そうやってやさしく、子供にも、私にも気を使うさかっぺ。本当に昔から、何も変っていなかった。彼は、ただいつも人にだらしなく奢るような男ではない。長い付き合いだからそれは知っている。しかし、困っている人や、助ける意味のある人には、出来る事を精一杯やってしまう男だ。ゲームのない我が家を見て、この少子化の時代に5人子供のいる我が家を見て、幼馴染の私のサラリーマンとしての姿を見て、きっと彼なりに感動してくれたのだと思う。さかっぺは、私の友達の中で、ある意味、一番私を評価してくれていた友だった。それが今回よくわかった。やっぱりさかっぺだった。懐かしいやさしい、少しスケベなさかっぺだった。
さかっぺと竜司を見送り、家に帰ると、子供達はさっそく大急ぎでWiiを起動。登録画面で、Wii本体に名前をつけるところがあったが、子供達は本体の名前を「さかっぺ」にした。涙が出た。子供なりにちゃんとわかってくれていることに安心した。「みんないい子に育ってんじゃン」と言ったさかっぺの言葉が心の中で聞こえた。

「すみけんが俺のビジネスやりたいとか、必要があると思うなら、ちゃんと教えるから」と言ってくれたさかっぺ。けれど、そんな事より、何も変っていない、昔のままのさかっぺと、また一緒に過ごしたい。もうこれ以上は奢ってもらうわけにはいかないけど。
でも、またお金出そうとするんだろうなあ〜。そういうやつなんだよなあ〜さかっぺって。