景色



現役のトップにいる時に見える景色からでは、実は見えないことの方が人生には多い。
最近の選手の立派なのは、自分がスポーツに打ち込める事に感謝している事だ。
両親に感謝し、
環境に感謝し、
協力してくれた様々な人たちに感謝し、
ありがとうございましたという言葉を忘れない。

なぜ今の選手は、こんなに倫理観と道徳心が備わっているのか、まったく私には理解できないほど、現役時代の私は生意気だった。

水泳は個人競技だからと、誰の世話にもなってねえとばかり、周りの大人に対して、まったく感謝の気持ちすら持っていなかった。

コーチの米川先生には、コーチっつったって、職業でやってんだから、教えるのは当たり前だろうと毒づき、両親に対しても、高校も大学も、俺の水泳で、特待生としてビタ一文お金もかかっちゃいねえんだから、親孝行だろうと、何一つ言う事を聞かなかった。

どうしてあんな性格だったのだろう。

よく生きてこられたもんだ。


世界で歯が立たない程度の、情けない当時の日本の水泳界という狭い世界でも、上から見える景色は、すべてが自分より格下に見えた。
かごの中の鳥だった。
自分の種目でライバルと感じる選手もいなかった。
いや、数人いたが、自分は敵と思っていなかった。いずれどんどん離れていき、やがては見えなくなるだけの弱いやつら・・・そんな風にしか見ていなかった。


よく生きてこられたもんだ。私など死んでもよかったような人間だった。





そんな私だが、でも実は、自分より凄いと思える人や、心に響く言葉や、出来事に出会うと、コロッと素直に聞き入ってしまう所があった。
だから、肩を壊して水泳が出来なくなり、大学の先生や監督と上手くやれずにトラブって辞めた後、どんどん1人で生きていくしかなくなって、世の中に、こんなに色んな人がいるんだと知り、そしてそういう様々な人たちに影響を受け、さらに徹底的にかき回され、いつのまにか根本的な自分を見失い、付き合った女性には徹底的に自信を失わされ、私はただの人以下になった。
ただ1人、私がどんなであろうと、何を言おうと、結局私の事を守り続け、助けてくれ、私の事を育て続けてくれた恩師、米川先生ですら・・・・・、あの世に逝ってしまった。


(ああ、多分もう俺はダメだな)


そんな風に自分を振り返っていた時、高校の同級生の隣の席だった、ちょっと綺麗な女の子に再会した。
私は助けられた。
自分が一番良い時に出会った女の子。
私が一番強かった時。
私が一番かっこよかった時。
あの頃に一緒に過ごしたお嬢さん。


私が一番デロデロに弱っている時に再会した。
高校時代、何度も銀座でデートした。
私には別の恋人がいたけど、それも承知でいつも、一緒に学校から帰った女の子。


「すみよしに彼女がいても別にいいよ」


そんな風に素朴な顔して言った彼女。

頭が良くないから人に見返りを求めない女の子。(笑)
ずっと昔から私を好きだというだけ。
ただそれだけ。
そんな天使のような娘が、今、私の妻になってくれた。
そして家族を作ってくれた。
子供たちを私にプレゼントしてくれた。


色んな経験をしたし、色んな栄光も手にしたが、すべてどうでも良い程度の事だった。
妻に出会ったことに比べれば・・・・・。




あそこで再会できたのは奇跡だ。
私が妻と再会したあの時の話は、以前記事にした。


http://d.hatena.ne.jp/sumikenn/20110512/p1



妻は実は信念の人。
大昔、池袋西武デパートの紳士服売り場に勤めていた。

私がそこへ買い物に出かけた時。
私は着ていたワイシャツを脱ぎ、彼女に見立ててもらった新しいシャツを着て、着ていたシャツを捨てておいてと、彼女に頼んだ。


そして彼女の休憩時間に合わせ、彼女と食事をし、そして帰った。


その時捨てたはずの私のシャツを、妻はずっと自分のパジャマ代わりにして、ずっと大切にしていたのだった。
その事は、それから10年後にお母様から聞いた。
それまで知らなかった。


私がどんな状態であろうと、妻はずっと私をあの時のままにしてくれていた。


自分の性格を自分なりに知っているつもりの私。
サラリーマンなんか、絶対に無理だと思っていた。
けれど、私はサラリーマンに中途採用で挑戦することを決意した。
今まで自分の為にしか生きていなかった私は、この時に始めて妻の為に生きてみたいと思った。
今まで自分より大切な女などいなかった。
自分が一番でしかなかった。
妻と出会い私は変った。
今でもそれは変らない。
私は妻の為に生きたいと思っている。


妻は何も言わなかったし、今も何も言わない。


こんな性格だから、入社してからしばらくは辛抱たまらなかった。
何度も上司や先輩を殴りそうになったけど、その度に妻のことを思い出して辛抱した。



私は子供を持つ自信がなかった。
これは大昔から。
だって自分みたいのが生まれてきたら、一体どうなっちゃうんだろうって、そう思わない?
自分の分身なんか、恐ろしくて見たくない・・・。
そんな風にしか思えない男だった。



それが、妻のおかげでまったく変ってしまった。
この人となら、私は自分の分身を見てみたい。
この人と自分の血が混ざった子供を・・・・、見てみたい・・・・・。
生まれた子供たちは、全員が天使のような子供だ。
みんなとてもいい子。
そして次々に増殖。
5人は経費もかかる。
下の子たちもいつか生意気になるだろう。
とんでもない悪さをするかもしれない。
でもまあしかし、私の分身だと思えば、何も驚かないだろう。
きっと妻の血が入っている分、私よりはずっとましだと思うから。



マチュアの世界で自分を育み、盲目となっていた自分は、妻に救われ今がある。
見返りを求めない、与えるのみに愛を存在させる妻。
究極の哲学的【愛】である。





ロンドンで世界のトップに立っている青年たちよ。
今そこから見ている景色だけでは人生は語れない。
そこまで登った後は、そこからどうやって降りるか、そこが問題だ。
降り方を間違えると落下することもある。
転げ落ち、目が回り、自分を見失うこともある。
【こちらへどうぞ】という甘い言葉もかかるだろう。
何が起きてもがんばれるはずの自分を信じろよ。
応援するぜ〜〜〜〜〜!!!!!