反省

月曜日の夜。
夕食を終えて、テレビでも見るかと思った矢先の事だった。
長女と話していた妻が、私に話しかけてきた。
「ねえ、この子部活辞めたいって言ってるけど、ダメだよねえ〜」
(う〜ん・・・・。何としたものか・・・・・。)
そもそも長女は、浜松に居た頃、中学で合唱部に所属し、全国大会にまで出場する程だった。
同じ合唱部の仲間とも、共に遅くまで練習し、雨の日も風の火も練習して、ソプラノの歌声は、私が聴いても驚くほどの美声だった。


しかし、私の転勤に合わせ、奈良に引っ越したことによって、長女の合唱への道は閉ざされてしまった。
たまたま受験もあったため、いずれにしても浜松でも部活は引退だったのだが、高校で合唱を続ける道も、合唱部がないことから閉ざされてしまった。
高校入学時、長女はどんな部活に入ればいいのか悩み、相談してきたので、私はいっそ、運動部にしたらどうか?とアドバイスした。
小さい頃からあまりスポーツをやってこなかったこともあり、ここらでいっぱつ、スポーツで汗を流すことを勧めた。
そして長女はバトミントンを選んだのだった。


最初のうちはラケットを買ったり、ウエアを買ったり、バッグを買ったりと、楽しかったのだろう。しかし、土曜日の日曜日も、祝日も休みのない部活で、平日も帰りが夜の10時になるほどの毎日。
高校から始めたバトミントン。周りは小学校や中学校からやっている生徒ばかりの中で、彼女は完全に素人集団として扱われ、試合にも出れず、上達もせず、きっと毎日の部活動が、痩せ細っていったのだろう。気持ちはわからないでもない。


しかし正直言えば、私も競泳の現役時代には、日曜も祝日も、クリスマスもお正月も、まったく休みなどなかった。熱が出ても練習は休めず、朝も早くから、夜も遅くまで毎日練習、練習、練習だった。そんな苦労は当たり前だと思っていた。
しかし、なぜそこまで出来たかといえば、私はチャンピオンを目指していたからだった。
日本一になること。そのような世界を見ていたから、やってこれたのかもしれない。



だが彼女は、高校時代をボケーッと過ごすのもいかがなものか・・・程度で、何かに打ち込む生活の方がいいんじゃないの〜?という親の意見で、実はそれほど興味もないバトミントンを始めた・・・・。というに過ぎない。実際のところ、あまり好きでもないバトミントン。親の勧めで運動部に入部したものの、まったく楽しさを見出せないという毎日だったのかもしれない。





「なぜ辞めたいんだ?」
そう聞くと長女は、
「ぜんぜん面白くないんだもん・・・・。」

確かに、そんな理由で一度始めた部活を辞めるなんて、そんないい加減な事は許さん!と、言うのも一理あるが、面白くないという理由も、前出の通り、よくわかる気がするのだ。
そこで私は、
「面白くないんじゃ、やってても辛いわな。いいんじゃない?」
と返事した。
まあ、今まで毎日毎日、夜も帰りも遅く、家族で一緒に夕食をとる事も減っていたし、休日も一緒に過ごすことも減っていたから。

「辞めるなら、学校終わったら、まっすぐ早く帰って来なさいよ。」
そう言うと、
「うん・・・」
と娘は返事をし、ほっと安心したような長女だったが、彼女の発した次の言葉に私はブチギレしてしまったのだ。

「うん。でも、バイトしたいから・・・」

「はあ〜〜っ!!!???」
「なんなんだそれは!話が違うじゃないか!バイトして遊ぶお金が欲しいから部活辞めるってことなのか!それは許さん!ふざけるな!」
「そんなに働きたいなら、高校なんか辞めて働け!」
キレる上司を散々馬鹿にする私が、娘にキレて、学校辞めて働け!とまでのたまうという醜態を見せてしまった。
(やばいな・・)
妻が、
「学生の本分は勉強じゃないの!部活辞めるなら、バイトなんかしてないで勉強するのが本分じゃないのってことなのよ!」
と言う。

しかし泣き出す長女。そのまま廊下に出て行き、そのまま布団に潜り込んだ模様・・・・・。



私の気持ちは、せっかくの学生時代。高校でも大学でも、卒業してしまえばとにかく働いていくしかない。幸い幸せな結婚が出来ても、主婦としての仕事は休みがない。場合によってはパートに出ながら子供を保育園に預けて・・・・なんて事もありえる。
要は、今だけじゃないかって事。学生時代を満喫できるのは・・・。
卒業すれば、この冷たく、せちがない世の中で働いていくしかないのだから。だからそんなに急いで働いて欲しくなんかなかった。


でも、私は間違えた。それに3分で気づき、すぐに2階の長女の部屋へ。
「かえで。さっきはごめんな。働くって言う事は大変な事なんだよ。お父さんはかえでに、そんな苦労をして欲しくなかったんだよ。」
「でも、おまえがそうしたいなら、話はわかった。どんなアルバイトにするかって事も含めて、お父さんやお母さんに、ちゃんと相談してからなら、お父さんが応援するから。自分で汗流してお金を稼ぐなら、そんな馬鹿げた使い方もしないだろうし・・・。」
そう言って部屋を出ようとした時、長女は、
「うん。わかった。」
と素直に返事をした。
本当に、すれた所がない娘なのだ。

「部活辞めて働く」
って言うと、なんだか悪い方向に行くように思いがちだが、彼女はそういうタイプの娘ではないのだ。
完全な田舎娘なのである。
しかしいずれにしても、高校生の娘を相手に、私は父親として少し勉強不足だった。
高校生の女の子を娘に持ち、さらにこれから3人の娘が高校生になって行く事を考え、私はもっと父親として学ばねばならん。
もっともっと使っていかなければ。心の経費。
甘えの効く、家族相手にキレた私は、ずるい父親だった。
反省だ・・・・・。