競泳生活 ①

かくして中学2年に入寮した「みどり荘」。様々な苦悩と共に1年近くが過ぎた。ひげじじいこと米さんは、私とひさし(不破央さん)の苦労に気づき、当初は寮生活も人間を作る大事な経験と考えていた節があったが、これはちょっと行き過ぎだろうと、気づいてくれたようだった。
私とひさしは、米さんに告げ口などしなかったし、寮生活はそういうものだと思っていたから、米さんもなかなか気づかなかった。
しかし、米さんは踏み切った。みどり荘近くの新築マンションをすべて借り切り、それまで4畳半に二人づつだった部屋割りを、6畳に一人づつの部屋割りに変え、食事担当の寮母さんまで変更。
格段に変わった料理の味。
イビキもタバコの煙もない一人部屋。
おまけに洗濯は各自、自分でやるように新たに決められた寮規則。
禁酒禁煙。(スポーツ選手はあたりまえ?)
門限6時。(どこへも行けない)
多少の不満はあれど、1年の地獄から一転、快適な寮生活が始まった。
中学3年になっていた。
快適な生活はすぐ記録になって表れた。3年生の春頃から飛躍的に伸び始めた記録。種目は1500m自由形。競泳では長距離種目だ。
相変わらずのきつい練習だが、シーズンの始まる夏まえには、今年の全国系の大会で、華々しくトップクラスへデビューできる感触だった。
全国中学校水泳競技大会で準優勝すると、ジュニアオリンピックで優勝し、中学新記録を樹立。一週間後の日本選手権で決勝へ進出し、4位。

自分の世界が変り始めた時だった。過去の中学生で、自分以上に早く泳いだ選手がいないことを表す、中学新記録。

日本選手権という、これまでは出場すら考えられなかった、すごい大人たちが出場する日本一を決める大会。そこで決勝に進出するなんて、考えられなかった。

同時に、ひさしも私以上に結果を出した。たしか、日本選手権初出場で、準優勝したのではなかったか。

米さんのコーチとしての目は、大当たりした。中学2年生と3年生の少年が、全国でいきなりデビューしたのだ。

気になって、現在の中学新を調べてみた。私は16分30秒だったが、現在はなんと!15分37秒!!
1分もちゃうやないか〜〜〜!がっくし・・・・・・。

自分の人生のほんの一握りの自慢だった中学新が、のろまな亀に思える。あの30年前の栄光が、ゴミのように消えていく・・・・。

中学時代からは飛ぶが、高校2年生のときにも16分3秒の日本高校新記録を樹立した。さっそく現在の高校記録を見てみる。
15分13秒・・・・・・・・・・・・・。
またしても1分近く早くなっている。完敗だな。乾杯しようじゃないか。

30年は長い。仕方ない。今は昔と違って、日本の水泳は、世界でメダルを数多くとる事が出来る選手がいっぱいだ。
そして最近感じることは、昔よりも選手が立派な人物が多いと思う。
練習を嫌がるような選手は少ない。自分の記録の追及の為に、自分ががんばる。当たり前のことをしっかりと受け入れている。

世界は進化するなあ〜。



競泳時代のエピソード。中学、高校、大学、と、本当に色んなことがあった。これから時々披露させていただきたい。

費やしてきた心の経費は幾ばくか・・・・・。