強太郎の努力

私の家の近くにはちょうどいい大きさの山がある。

散歩道とも言えるけど、ちょっとハイキングっぽく歩ける山道。

その山道を2時間半、妻とウォーキング。

最近めっきり増えてしまった飲酒と、運動の少ない不健康な生活と、ストレスの溜まり過ぎているサラリーマンとしての中途半端な仕事ぶりに、太った元水泳選手(25年前)は悶絶の毎日。

少しは運動しなきゃと、休日の午前から、別の運動してそしてまた、さらに2時間半歩きました。

週3と週末のウォーキングでも、まだ運動が足りないのか。

それともやっぱり食べる量が多いのか・・・・。

一向に体重は減らない。ビクともしない。

12キロ半年以上かけて落としてきて、ここで打ち止めか。

このヒップ見ながら歩いていれば、そりゃあ我慢できないよね。

ご馳走様でした。美味しかったです。







そして息子が水泳の試合。



小学校6年生の卒業の時、中学に入ったら野球部入るって言ってた息子が、突然水泳部にすると言い出したのは、大阪なみはやドームで行われた水泳の日本選手権を見学に行った帰り道だった。

その日に行なわれたレースで、日本新記録を樹立した選手を讃えているアナウンスの声と、手を振る選手を見ながら、昔の水泳の仲間が我が息子に言った一言で、彼の中学生生活は、激変する事になった。



【強太郎。おまえのお父さんはね、昔ああやって、アナウンスされて、観客の拍手を浴びて、あんなふうにプールの中からこちらに向かって手を振ってたんだよ】



白い肌の息子の、頬が少し赤くなり、目が少し上に引きつっていたのを覚えている。
きっと興奮したのだろう。
自分の父親の昔の姿を、彼なりにあの時の選手になぞらえたのかもしれない。



そして帰り道で言った言葉が【お父さん僕、水泳部入る】の言葉だった。



それでも昔、さんざん競泳生活で苦しい思いして、親元離れて寮生活して、青春を謳歌するどころか、めちゃくちゃ色んなことを犠牲にして、こうして今この歳になって残った物が何だったか。
それは【思い出】だけだったから、息子には私のような青春時代を送って欲しくはないと思い、水泳は学校の水泳部だけでやっておいて、スイミングには通う必要はないと思っていた。
息子もスイミングスクールの、【選手クラス】という存在も知らないし、かっこよく水泳部入るといったものの、完全ど素人の息子だもの、もちろん選手クラスなんか、入れないだろうと思っていた。



しかし中学一年の夏。

中体連の新人戦で、本人がゆういつ泳げる種目である、平泳ぎで、100mに出場。
そのストロークを見て、愕然とした。物凄く驚き、衝撃だった。

完全ど素人のはずの息子。

なぜか、一定の完成度と、微妙なセンスがストロークに垣間見れる。

私は大学時代に学生でありながらコーチをやっていた。

そのときに徹底的に勉強したストロークの基礎知識がある。

流体力学の基礎法則も数式以外は理解している。

(こいつ・・・、素質あるなあ・・・・・)

私の直感と、昔の闘争本能が、胸の奥のほうでポクポクと沸騰し始める。

そのときに私は気づいた。

(俺が間違っていたのか・・・)
(やるならチャンピオン目指せっていつも部下に言っているのは俺じゃないか・・・・・)
(強太郎に夢を見させなきゃいけなかったんじゃ・・・・・?)
(実は逃げていたのは息子ではなく、俺だったのだ・・・・・)



そしてJSSの選手クラスを、昔馴染みの往年の名選手、近藤コーチに紹介していただき、むりやりねじ込んでもらったのだ。
本当にありがたいスイミングだ。

入って数ヶ月。
平泳ぎだけ、かろうじて泳げる程度の息子。
一番端の、小学校低学年の小さな子供たちに混じって、細くも大きな体の息子が泳ぐ。
半分溺れているような練習の毎日だったが、彼は一度も弱音を吐かなかった。




まだまだ全国大会にも出れないレベルとはいえ、それを狙うような所にまで登ってきた息子。
先日のJSSの大会で、【優秀努力賞】という賞を頂いてきた。



きっとコーチが、ど素人から成長した息子を、不憫に思って推薦してくれたのだろう。
しかし、いずれにしても、自分では出来ない、他人がする【評価】という、ある意味では一番むずかしい価値を、彼は獲得したのだと思う。

息子を、【よくがんばっている】と、評価し、賞賛に値すると見つめてくれたことに、JSSという組織に感謝し、息子を讃えたいと思う。






私の時代は色んな弊害や障害があって、スポーツに没頭する環境を手に入れられる子供が少ない中、私は苦しい生活だったとはいえ、その環境は今にして思えば、物凄い恵まれた世界だったのだ。
そしてその環境を作り、私に与えてくれたのは、他ならぬ両親であったのだ。

そして誰よりも・・・・・、【米川先生】だった。




私も少しは息子に夢を見させてやらねばならない。



今はまだ全国では戦えないが、遅く始めた分、まだまだ伸びしろがいっぱいだ。


きっと高校、大学と、辛抱してがんばってトレーニングを続ければ、いつか全国で戦える機会を獲得出来るだろう。
彼にはそういう素質とセンスと、なによりそういう【星】を持っている気がする。

それにこいつは俺より根性がある。俺は努力しないで日本一になったと言われ続けていたのが、ずっと嫌だったけど、でも、こいつ見てると、そう言われてもしょうがねえやと思う。



そうだその調子だ。もっともっとやれ!やるんだ強太郎!