積雪②

会社を出たのが20:00頃。いつもの駅に着き、電車が来たので妻にメール。「今乗った。」いつものやりとりだ。
東大阪はこの時間、ほとんど雪は止んでおり、少しの雨に変わっていたし、積もってもいなかった。
しかし妻からのメールは、「車ではいけない。歩いて」という返事だった。
すかさず、「え?来てくれないの?傘もないのに!」
「はい。」
は、はいってあぁ〜た、冷たっ!

電車はトンネルに入り、携帯の電波はバリゼロ。
仕方なく諦め、15分でいつもの駅に着いた。
駅について改札を出ると、そこは東大阪とはまったく違う世界だった。歩道は踏まれた雪で氷状態。革靴であるく氷の上ほど怖いものはない。
ま、家までの距離は30分くらいだし、たまには歩いて帰るか・・・。

滑らないように必死に歩くサラリーマン88キロ。
500mほど歩いただろうか。前から見覚えのある美しい熟女が。はい登場!愛妻である!

(素敵っ!君のそういうところ!)

素直に喜べないダメ親父、「このくらいじゃあ、運転平気じゃね??」
「運転は何とかなっても、進まないもん。道。」
確かに道路が渋滞している。
「なるほど。」と私。
「はい傘」と妻。
「いいよ、それほど降ってないじゃん」と私。
「なんだ〜平気じゃん〜」と妻。
「いや、こうやって杖の代わりにしたかったんだよ」とダメな俺。
傘を杖にして夫婦で歩き出す。

おもむろに妻が、「今日まだ梁(りょう)が帰ってきてないんだよね〜。幼稚園バスがまったく動かなくなっちゃったらしくて〜」。
「はあ?!なんでもう9時になろうとしてんじゃん!!飯だって食ってないんじゃない?」

雪でバスが渋滞に巻き込まれ、さらに雪の中、意地でも車を運転する素人雪道ドライバー達が次々と事故を起こし、道路は缶詰状態らしい。そのせいで、積もる雪の中、幼稚園児たちがバスに閉じ込められ、5時間もの時間が経とうとしているというのだ。

「今バスはどの変なんだ?」と聞いても、よくわからないらしい。幼稚園の先生からは、電話があり、車などでバスまで迎えに来られても、たどり着かないから来ないでくれと言われたらしい。

「じゃあ、歩いていけばいいじゃないか?」と私。
「歩いて行ってどうするの?雪の中2人で歩くって事?1時間半はかかるよ!?」と妻。
「おんぶすればいいじゃないか。その為にいつもウォーキングして鍛えてんじゃないのか??」と、もはや支離滅裂な事を言う私。
「いや、ダイエットの為ですけど」と妻。

とにかく家路へ急ぎ、半ば雪の中を走って家に到着。

すぐに妻に幼稚園バスの先生の携帯へ電話させ、バスが今何処なのか確認させた。
思ったより近くにいることがわかり、急いで服を着替え、表へ走る。

(きっと幼稚園バスが渋滞で止まって動けない間に、ほとんどの父兄が、歩いて迎えに行っているはずだ。もしかしたらあの子は、バスで1人だけかもしれない。5時間バスに閉じ込められてるんだ。4才の子供達が。父兄がとっくにほとんど連れ帰っているに違いない。ひとりだけ親が来なかったんだ。かわいそうに。)

と、完璧なイメージが完成。

妻も一緒に、雪の振る中、氷の歩道を走る走る走る・・・。

危ない急な下り坂を走って下り、すぐバスを発見。
向こうも私達を発見。

と、到着したバスを見て驚いた。まだまだ沢山の幼児たちが乗っているではないか!!

たまたまうちの子のいつものバス停から近くだった為、同じ事となったが、まだこんなにバスの中なのか!?と、胸が痛んだ。
「もうすぐだからね〜!かんばってね〜」と、子供達に声をかけるのが精一杯。
みんな悲しそうに私達を見つめる。

うちの子もうつむいたまま、だまって私に抱きついた。
そのままおんぶして、上からコートをすっぽりかぶせる。
急な坂道を88キロが登る。

話しかけても返事をしない幼い娘に、妻が声をかける。

家に着き、子供と妻を部屋に入れ、私は再度外へ。
昨日からずいぶん溶けてしまった雪だるまを、手直しした。
明日の朝、子供達が見て喜んで欲しいなあ。

末っ子が心細いだろうと、歩いて迎えに行けばいいと言ったが、バスにはまだ沢山子供が乗っていた。
バスが動いていないんだから、言っても1時間程度に自宅があるんだろうから・・・、と思ったが、あの時の子供たちを見たとき、うちの子はまだ他の子よりは早く親に会えたのだ。
すこし身勝手だったかなあと、反省・・・・。
けどわかるんだ。俺には。
あの子は、お父さんが来てくれるって、ずっとバスの中で思っていたはずだって。まだかな、まだかなって。
だからそれが私に伝わったんだって。
俺にはわかるんだ。


疲れたんだろう。いい寝顔だ。