じんましん

今から5年ほど前だったろうか。
一度、物凄い蕁麻疹モードに突入したことがある。
きっかけは、当時の拠点責任者に就任した事からだったと思う。
販売と、生産の両方の責任者を兼任し、両極端な問題をタイムリーに片付けていかねばならない、精神的に毎日追い詰められた生活を送り始めてまもなくの事だった。
朝起きたら、唇が重い。
はっ?!と思い、蚊にでも刺されたかと、唇に手を当ててみた。
『ボヨヨ〜〜〜ン』
という、生まれて始めての唇の感触に、一瞬頭がパニックになる。
「ああ〜〜っ!!」と、思わず声を上げ、妻の元へ駆け寄る。
「おい!くちびるおかしくね??くちびるっ!」
と、妻にググッと見せ付けると、
「あーーーー。ほんとうだーーーーー。腫れてるねーーーーー。」
と、さっぱりと冷たく言われ、なんだこれ?なんだこれ?と、私は1人で大騒ぎ。
妻は生まれ以って天然。
「蜂?蚊?なんだろうねえ〜」
と、妻は興味がない。
「なんだよ〜、どうすんだよ〜、こんなんじゃ会社行けねえよ〜」
と私はもう少し重大にしようと必死。
妻は、完全に顔が引きつっている。完全に笑いそうなのを我慢している顔だ。
私が、「もう会社行けねえ。」と言い放つと、妻は、「ぷぷっ」と笑いやがった。
怒り心頭の私は、すぐに洗面所へ。じっくりと顔の中でイビツに大きく膨れ上がった唇を眺め、そっと触る。触ると、痒みが襲い始めた。
薄皮一枚の唇を、思う存分掻くことも出来ず、シャワーを浴び、裸のまま氷で冷やす。
一人ぼっちで必死に自分の唇を手当する変態デブ親父を、やっと哀れに思ったのか、妻がビニール袋に氷を入れて私に持って来る。
「これ口に当てて行けば?」
「う・・・うん・・・」
こんな親父でも、自分の顔がぶっ細工になるのが悲しいだなんて。自分でも気付かなかった。そんな自分がまた情けない。
「はあ〜〜〜」とため息ついて、スーツ着て会社行った。
会社に着いて、もう最初にみんなに大声で伝える。
「おい〜〜、これ見てくれよ〜〜〜」
部下達も女性陣も、ググ〜〜ッと集まってくる。
私の唇を眺め、半分笑いながらどうしたんですか〜?とか聞きやがる。
「わかんねえ。」
キッパリと言い放つ俺。
でも間違いなくみんな心で爆笑している。
だから言ってやった。
「みなさん。笑うのを我慢しないで下さい。」
ドッと大笑いする冷たい社員達。朝礼の間もぱっと目が合うと、みんな私の唇を見ている。
塩崎と言う私の右腕(No2)の男は、
「は、浜ちゃん?」
と言いやがった。
殺そうかと思ったが、そこは上司たる者、大らかに行かなければならない。
「ふふっ」と静かに、そして目で殺す。
そんな唇だから、外回りはしないから、社内勤務に終始。
そうして昼になった。
どこか忘れたが、たぶんどこかのラーメン屋さんで、変な唇しながらラーメン食べた。
普段よりスープが熱く感じ、ネクタイにチョロチョロと、唇から垂れた。
帰りの車の中で、妙に腕が痒い。
なんか痒いなあ〜〜と思いながら、運転しながらボリボリ掻いていたら、はっと気がついたときには腕がカーデシア人になっていた。
完全に爬虫類。しかもワニ系。
会社に戻ると全身が痒い。会社の女の子に、背中を掻いてもらう。
シャツの上からでは我慢できなくて、生掻きまでしてもらう。
そうして私は完全に全身に写真のような蕁麻疹が出来上がった。

そしてやっと医者に行った。

掻くんじゃないと医者は言う。

無理だった。すごく痒い。掻かないわけない。

薬をもらって、2日くらいでやっと引いたが、その2日後くらいにまたすぐに出た。

唇、まぶた、全身、指、股間、頭・・・・・。
まるで順番みたいに色んな場所に出る。蕁麻疹がそんな物だとは知らなかった。
それから体重を10キロ落として、蕁麻疹は出なくなった。
減量の成果で出なくなったのかどうかはわからないけれど、、現在はその10キロは元に戻した。
っていうか、戻っちゃった。でも今は出なくなった。
あの痒さと、爬虫類系地球外生命体カーデシア人への変身は、2度とごめんだ。