イメージの実現

息子は才能があるのかもしれない。

スポーツで大成する為には、毎日の練習の積み重ねとそれを何年も何年も積み重ねるという気の遠くなるような努力の日々が必要だ。
水泳は特にそういう競技である。
水の中で体を動かし、推進力を最大化するという技術は、簡単には身に付かない。
ほとんどの場合、小学校低学年くらいからスイミングスクールの選手クラスに通い、毎日2時間程度、冬場などは朝練習として2時間、あわせて一日4時間も水中でトレーニングで過ごす。
1日で起きている時間を16時間と仮定すると、実に4分の1の時間を水中で過ごしている事になる。
私は現役時代、水中練習で1日6時間過ごした。起きている時間の3分の一を、水中で過ごすことで、逆に陸の上が苦手になったほどだ。
現役時代は、歩くのが本当に苦手だった。



息子は、水泳選手としてはキャリアが圧倒的に浅い。
小学校時代はスイミングスクールに通わなかった。
当然選手クラスなどまったく遠い世界の話で、中学に入る直前まで、本人は野球部に入部するつもりだったのだから。


私と一緒に水泳の日本選手権を見学し、30年前の私が新記録を樹立したり、日本選手権を獲得したりしていた事を聞いた彼は、その帰り、突然こう言い出したのだ。
「お父さん。僕、水泳部に入る・・・・・」



正直な話。

私は水泳界にいい思い出がなかった。
出会った多くの先輩や友との思い出はかけがえのないものであり、最高の思い出でもある。
しかし、水泳界やその周辺にに残った、あるいは当時残ろうとし、残りたがっていた人との関わりにウンザリしたことと、アマチュアスポーツの裏にある世界観にがっかりしたことが、水泳から離れようと思った原因のひとつだった。



そんな私だったから、子供に水泳をさせる気はなかった。
それに、プロのないスポーツをやっても、残るものは、【思い出】しかない。
思い出で飯は食っていけないし、水泳なんてやったって、何も良い事なんてないんだからなんて言ってうそぶいて過ごしてきた。
もう何年も何年も水泳の試合会場なんか行かなかったし、テレビでオリンピックの水泳のレースですら、ずっと観なかった。



しかし、息子の一言は胸に突き刺さった。
蛙の子は蛙なのか・・・・・。
まさか、我が子が水泳をやるなどと・・・そんなことを言い出すとは・・・・・。



こうして、遅ばせながら、中学生になってから、水泳を始める事になった息子。
スイミングスクールにも通わずに、生まれて初めて、ぶっつけ本番みたいに出場した長水路での試合。
新人戦の100m平泳ぎに出場した。
1年前の夏の初レースである。

この頃はまだ、手足も細く、腕力もパワーもないひょろひょろの体だった。
この時のレースで見た息子の泳ぎは、決して親バカ論理だけではなく、センスと素質を感じるものだった。

現在の息子は、8ヶ月スイミングスクール生活の成果で、この頃よりもがっちりして、水泳選手っぽくなった。

水の中で推力を生ませるという感覚を、素人なのに、すでに持っている彼のストロークに私は見入った。
記録は1分30秒台であり、たいしたことはないが、それでも周りの選手達は、すでにスイミングスクールに通う選手であり、その選手らを次々に後半追い抜いて行く彼の泳ぎは、つい、将来を期待してしまう、そんな泳ぎであった。
1年前の夏は、ぶっつけ本番で泳いだレースで水泳デビューした。
そしてシーズンが終わり、私は息子をあるスイミングスクールの選手クラスにねじ込んだ。
どうせやるなら、徹底してやれ。
私は過去、日本のトップ選手であったが、こと水泳においては今まで彼には何のアドバイスもしてこなかった。

私は息子を選手クラスにねじ込み、大いに水泳で青春時代を染めてもらおうと、過去の自分の考えを改めた。


中学からの遅いスタートだが、息子はメキメキと頭角を現している。
100m平泳ぎを、1年で15秒短縮した。
現在は1分14秒98である。

残念なのは5月に足首を10針縫う怪我をし、練習を長期的に休んだことである。
それがなければ1分10秒近くにまで記録を伸ばしていただろう。
1分8秒になれば、全国大会への出場権を獲得できる。



日本記録北島康介選手の58秒だ。
あと17秒を100mで短縮しなければ、オリンピックの金メダルには届かないと言うことだ。



本当に遠い記録の世界だ。だがしかし、逆に言えば、17秒先には、あの偉大な北島選手のいる場所があるということ、そしてそこを遠くながらも、息子のいる位置からも見られるということが、本当に幸せな事だと感じる。

全国大会に出れなくても、1位になれなくてもいいんだ。
こうして、まっしぐらに何かを目指して生きる時間を、息子が過ごしてくれさえすれば、それでいい。


息子を連れて水泳の日本選手権を見学に行こうと決めた時、本当は、心の奥底で、息子が、水泳をやろうと言い出してくれないだろうか・・・・と、期待している自分がいたのかもしれない。


1年半前、池松さんというメンターコーチとの出会いがあった。
そのセミナーで池松さんに直接自分をシェアして頂いた私は、自分の心の奥にあった、自分ですら忘れていた本当の気持ちを、開放することが出来た。
いつの間にか変っていた自分に気付き、全部ではなく、少しだけ昔のもっと勇気のあった私を取り戻すことが出来た。
あのセミナーの経験で、私は息子と水泳を追求すること、トップを目指して夢見ようと、そうどこかで決断したのだと思う。
あの時私の中に生まれたイメージが、全部、どんどん確実に現実になっている。
私はイメージを実現する力があるから、息子の隠れた才能と相まって、どんどん良い結果や、想像の実現が起きている。
私たちの描いている進化の形を、引き寄せている。


経費かかるけどやってよかった。
息子の影響で、下の3人の娘たちもスイミングに通い始めた。
いつか全員選手になれ!
長女も声楽を習い、音楽大学を目指すようになった。
池松さんとシェアしたことで私は解放されつつある。
解放された私はイメージを実現するだろう。
もともとそういうのがとても得意だったから。
息子のおかげで、自分が楽しみになってきた。
親子でイメージを実現しようと思う。