知らない
昨日の夜。
ある女性に出会った。
初めて会った女性だ。
顔を知らない。
背は168センチくらいだろうか。少し細身で、髪はショート。
白っぽいズボンに、ふわふわした銀色の薄手のセーターを着ていた。
なぜか妙に安心する。
彼女はあまり笑いもしないのだが、かといって不機嫌ではない。
いつのまにかそこに、スッと立っていて、私のそばに居る。
居て当然のように。
何人かで彼女の住む家にお邪魔した。
入り口に入るとすぐに20畳くらいのリビングがあった。
寝転べるような大きなソファーがあって、そこにクシャッと丸まって、毛布がある。
『 疲れて帰ってくると、ここでそのまま寝てしまうこともしばしば 』
と彼女が言う。
なにかデザイン系の仕事をしているようだ。
私はひとり暮らしをしていた若い頃を思い出し、少し笑った。
(俺もよくそんな風に寝てたっけ。。。)
お邪魔した数人でお酒を戴くことに。
氷は奥の部屋にあるからと言われ、私が取りに行った。
奥の部屋はまた20畳くらいある大きな寝室で、そこにはダブルベッドより大きな、4人くらいは寝られそうなベッドがあった。
そのベッドを見ながら、もうずっとベッドで寝ていないなあと、昔を思い出した。
新婚当初は、親友のリンちゃんの家具屋さんで、ゼリークッションの高額なベッドを買って、リンちゃんが家に来て、組み立ててくれたなあと、スーツ姿で我が家に来て、汗をかきながらベッドを組み立ててくれているリンちゃんの、そんな光景と姿を思い出していた。
寝室には正方形の大きな冷蔵庫があった。
氷を出そうと、その冷蔵庫の扉を開けると、そこはすべてが冷【凍】庫になっていて、それは冷蔵庫ではなく、冷凍庫そのものだったことに気づいた。
冷凍庫を開けると、その中には、直径10センチはあるような大きな正方形の氷の塊が、均等にいくつもいくつもぎっしりと置かれていた。
正方形の冷凍庫はその背丈が低く、上に大きなガラスのコップが置かれていた。
そのコップにちょうどよく入る、10センチ四方の氷。
ひとつのコップに、ちょうどいっぱいになるような大きな氷。
あまりにジャストフィットなので、お酒を注ぐと、すべてコップの中にぴったり入った氷の上に注がれるようになる。
( 時間をかけて溶けることになるか。。。 )
そんなことを考えていたら、一緒に行った仲間が部屋に入ってきて、何人か分のコップを用意してくれた。
用意が終わり居間に戻ると、彼女はその大きなソファーに横になり、どこでも好きなように座って。と言った。
しかし居場所がわからない私は、どうしてもあの大きな冷凍庫と、その中にあるぎっしりと詰まった10センチ四方の氷をまた見たくなって、寝室に移動した。
氷をじっと眺めていたら、
『 氷ってきれいでしょ。 』
といつのまにか隣に彼女がいて、私に語りかけてきた。
驚きもせず、気になりもしない。
なにひとつ違和感を感じない女性。
私はその横顔を見ながら考えていた。
( この人は誰なんだろう。。。 )
どこかで見たことがあるのか。
またはどこかで会ったことがあるのか。
そもそも知り合いなのか。
それがどうしてもわからない。
そのうち居間のほうから彼女を呼ぶ声がした。
『 くまがいさん! 』
( くまがい。。。??? )
どうしてもわからない。
私は【 くまがいさん 】という女性を知らない。
そしてなぜ自分が、このくまがいさんの家に今、居るのだろうか。
それもわからない。
しかしとてもしっくりとくるその存在。
違和感を感じることもなく、なんの柵(しがらみ)を感じることもない。
時々私のほうを見るが、笑いかけることもない。
何も不安を感じず、一切プレッシャーをかけない表情で私を見つめ、そしてまた目線をはずす。
美人という記憶はないが、色白であることの記憶が強い。
履いていた靴は白っぽいスニーカーのようだった気がする。
いつのまにか場所が移動し、デサントのアリーナブランドの商品を展示即売している会場に移っていた。
後輩のボブと一緒に、新しいデザインのTシャツを選びながら、その女性も同行している。
何も違和感を感じず、一緒に行動している。
『これいいデザインだよね』
と話かけても返事をしない。
返事をしないが、それでいいような気がしている。
そのあたりで目が覚めた。
誰だろう。ぜんぜん知らない。